成年後見人制度は、障がいを持つ方の財産管理や生活のサポートを行うための制度です。
特に自分で判断が難しい障がい者にとっては心強い味方となります。
しかし、メリットがある一方で、障がい者本人やその家族にさまざまな制限が発生するデメリットもあるため注意が必要です。
この記事では、成年後見人制度の概要やメリット・デメリット、費用や手続き方法をわかりやすく解説します。
成年後見人制度以外の、障がい者をサポートする制度もお伝えするので参考にしてみてください。
目次
成年後見人制度とは?
成年後見人制度とは、障がい者や高齢者といった自分自身で財産管理や生活上の判断が難しい方のサポートをする制度です。
日常生活や財産管理などで、判断能力が不足していると判断された方が対象となります。
判断が難しい本人に代わり、成年後見人が財産管理や介護サービスの手続きなどを行ってくれます。
また、本人の生活状況を把握して、適切な福祉サービスの利用を支援することも成年後見人の重要な役割です。
成年後見人制度は法定と任意の2種類ある
成年後見人制度は、大きく法定後見人と任意後見人の2つがあります。
種類 | 説明 |
---|---|
法定後見人 | 判断能力が不十分な人の代わりに、契約締結や適切な福祉サービスの利用支援など幅広いサポートを行う ※法定後見人は後見・保佐・補助の3種類ある |
任意後見人 | 本人が判断能力を有している間に、将来の判断能力低下に備えて自ら選任する制度 本人の判断能力が低下した際に効力を発揮する |
後見、保佐、補助それぞれの違い
法定後見人は、本人の判断能力の程度に応じて次の3つのいずれかが適用されます。
種類 | 説明 |
---|---|
後見 | 判断能力がほとんどない場合に適用される。 成年後見人が財産管理や生活全般のサポートを行う。 |
保佐 | 判断能力は不十分だが、ある程度は自分で判断できる場合に適用される。 保佐人は特定の事項のみサポートを行う。 |
補助 | 判断能力がある程度ある場合に適用される。 補助人は本人の希望に応じてサポートを行う。 |
法定後見人になれる人は親族や法律の専門家
成年後見人になれる人は、本人の利益を最優先に考えて適切に職務を遂行できる人物である必要があります。
具体的には、信頼できる家族や親しい友人、弁護士、司法書士、社会福祉士などが後見人に選ばれることが多いです。
親族でも法定後見人になれないこともある
親族だとしても、次の欠格事由に当てはまる方は成年後見人になれません。
- 未成年者
- 他の方の後見人、保佐人、補助人をしている人
- 過去に犯罪歴がある者
- 本人に対して訴訟を提起した者やその家族
- 経済的な利益が対立する可能性のある者
障がい者が成年後見人制度を使うメリット
障がい者が成年後見人制度を使うメリットは次のとおりです。
適切な財産管理や日常生活の支払いをしてくれる
成年後見人は、本人の財産管理と日常生活における支払いの管理を行います。
家賃や光熱費、医療費、介護サービス費用など、生活に欠かせない支出を滞りなく支払えます。
また、本人にとって不要なサービスの解約も行ってくれるため、経済的な負担や心配を軽減でき、安心した生活を送れるでしょう。
住居や介護福祉サービスの契約や手続きを行ってくれる
成年後見人は、日常生活に必要なさまざまな契約や手続きを代行してくれます。
たとえば、住居を確保するための物件選びや契約手続きです。
他にも、介護サービスに関しては本人の健康状態や生活状況に応じた最適なサービスの選定から行ってくれます。
緊急時には迅速な対応が求められるため、それを代行してくれる成年後見人はありがたい存在です。
遺産分割協議をしてくれる
成年後見人は、遺産分割協議をする際に、本人の代理人として参加できます。
遺産分割協議とは、故人が残した財産を相続人間でどのように分けるかを話し合う手続きのことです。
遺産分割協議には正確な財産の把握と適切な分割方法の検討が必要です。
成年後見人は、本人の代理として必要な書類を揃え、相続人間の協議を円滑に進める役割があります。
障がい者が成年後見人制度を使うデメリット
障がい者が成年後見人制度のデメリットは次のとおりです。
本人が亡くなるまで成年後見人を外せない
成年後見人を選んだ後は、原則として障がい者本人が亡くなるまで外せません。
一度選任された成年後見人を外すには、家庭裁判所の許可が必要となります。
これは制度の濫用を防ぎ本人の利益を守るためです。
成年後見人の行動に問題がある場合や、障がい者本人や家族との間に信頼関係が築けない場合でも容易に交代ができません。
成年後見人制度を利用すると、基本的には外せないことは覚えておきましょう。
毎月の費用を払い続けなければならない
成年後見人制度を利用する際は、毎月費用の支払が必要です。
成年後見人の報酬額は、次の要素で家庭裁判所の判断で決定されます。
- 被後見人の財産や収入
- 後見人の業務内容と業務量
成年後見人の報酬は、生活費や医療費とは別に必要になるため、経済的な負担となります。
家族の財産状況と相談しながら慎重に判断するようにしましょう。
本人や家族が財産を自由に使えなくなる
成年後見人制度を利用すると、本人の財産は本人とその家族は自由に使えなくなります。
制度が本人の財産を守り適切に管理することを目的としているからです。
大きな買い物をする際や資産を売却する際には、その都度、成年後見人の許可や判断が必要となります。
本人の財産を生前贈与できなくなる
成年後見制度を利用する場合、障がい者本人の財産を生前贈与することは認められません。
※生前贈与とは、生きている間に自分の財産を他人に譲渡すること
成年後見人制度の目的である本人の財産を保護することと、本人の財産を減らす生前贈与は相反するからです。
家庭裁判所の許可を得るためには、贈与の必要性や被後見人にとっての利益が明確であることを示さなければなりません。
しかし、一般的には認められにくいのが実情です。
成年後見制度の利用は財産保護に有効ですが、相続対策として生前贈与を実施する柔軟性を失うことは考慮しておきましょう。
成年後見人の不正トラブルもある
成年後見人による不正の代表例として、財産の横領や使い込みが挙げられます。
不正内容は次のケースがあります。
- 預貯金や不動産の不適切な管理
- 報酬の過剰請求
- 本人の財産を私的に流用
仮に成年後見人が不正をした場合は、家庭裁判所に相談して成年後見人の解任を求めることを検討してください。
成年後見人を選ぶ段階から財産管理の方針や情報共有方法を親族間で話あっておくと、トラブルの可能性を抑えられるでしょう。
成年後見人制度の手続きの流れ
成年後見人を立てる手続き流れを順番に解説します。
①申し立ての準備
まずは次の必要書類を揃えます。
- 申立書:家庭裁判所から入手できる申立書
- 診断書:本人の判断能力の状態を証明するための医師の診断書
- 財産目録:本人の財産状況を詳細に記載した目録
- 親族関係図:本人と親族の関係を示す図
- 収支状況報告書:本人の収入・支出の状況
- 後見人候補者事情説明書:後見人候補者の情報を記載
②家庭裁判所に申し立て
準備が整ったら家庭裁判所に申立てを行います。
本人が居住する地域の家庭裁判所で申し立てを行い、申し立て書類一式の提出と必要な手数料を支払います。
手数料の目安は次のとおりです。
- 申立書に800円分の収入印紙
- 後見登記手数料として2,600円分の収入印紙
- 郵便切手: 3,200円程度
申立てに必要な費用は6,600円~となり、これらの費用は原則として申立人が負担します。
③審理
審理では、裁判官が提出された書類や診断書をもとに、本人の判断能力の状態や後見人候補者の適格性を判断します。
場合によっては、本人や親族、後見人候補者に対する面談や調査が行われることもあります。
④決定・登記
審理が終了すると、家庭裁判所は成年後見人を選任します。
選任された成年後見人には審判書が送付され、審判書が届いてから2週間以内に不服の申立てがなければ審判の効力が確定します。
成年後見人以外の障がい者をサポートする制度
成年後見人制度以外の障がい者の財産管理や生活をサポートしてくれる制度を紹介します。
身内が財産管理を行う家族信託
家族信託は、障がい者本人の代わりに親や兄弟、信頼できる知人が財産管理を行います。
財産管理の方法を詳細に決められるため、成年後見人制度よりも柔軟な対応が可能です。
少し項目は多いですが、家族信託と成年後見人制度の違いを↓の表にまとめました。
比較項目 | 成年後見人制度 | 家族信託 |
---|---|---|
開始手続き | 家庭裁判所の審判が必要 | 信託契約書の作成 |
監督機関 | 家庭裁判所 | なし ※信託監督人を置くことも可能 |
費用 | 家庭裁判所への申し立て費用 後見人報酬などが発生 |
信託契約書作成費用、受託者への報酬 ※必要に応じて |
管理者の選定 | 家庭裁判所が選任 | 信頼できる人を自由に選定 |
財産管理の柔軟性 | 制約が多い | 信託契約に基づき柔軟に管理可能 |
報告義務 | 家庭裁判所への定期報告が必要 | なし ※信託監督人を置く場合はその人への報告が必要 |
終了手続き | 家庭裁判所の許可が必要 | 信託契約の終了条件に従って終了 |
相続対策 | 制度外 | 信託契約により相続計画を立てられる |
適用範囲 | 法定後見制度は全財産が対象 | 信託財産に指定した財産のみが対象 |
財産管理者の変更 | 家庭裁判所の許可が必要 | 信託契約に基づき柔軟に変更可能 |
契約や手続きの代行 | 対応できる | 対応できない |
自由度の高い家族信託ですが、その分、専門知識や責任感のある方を選定する必要があります。
それと、家族信託の対象範囲はあくまで財産管理です。
住居や介護サービスの契約や手続きなどは対象になりませんので覚えておきましょう。
相続トラブルを防ぐ遺言書
遺言書は、財産の分割方法をあらかじめ決めておくことで、相続トラブル予防できます。
たとえば、親が亡くなって親の財産を3人の子供たちが相続することになったとしましょう。
この場合、一般的には財産を3等分して相続します。
しかし、家や土地、金融資産など単純に3等分できない財産もあるため、相続人全員でどのように分配するかを話し合う遺産分割協議が必要です。
普段の生活をサポートする障がい者支援施設
障がい者支援施設では、食事や入浴、排泄の介助など日常生活に必要なサポートを提供しています。
家庭で支援が難しい場合や、専門的なサポートが必要なときに利用されます。
障がいが比較的軽度の場合は、障がい者グループホームも選択肢の1つです。
障がいを持った方が共同生活する場所で、社会と関わりを持ち自立することを目的としています。
自立した生活を目指したい方は、障がい者グループホームをわかりやすく解説した↓の記事も参考にしてみてください。
成年後見人制度の利用は慎重に!
成年後見人制度はメリットとデメリットがあるため、慎重な判断が必要です。
メリットとしては、財産管理や必要な福祉サービスの選定、手続きまで行なってくれます。
財産管理でいえば、成年後見人制度以外に家族信託や遺言書を残す方法もあります。
普段の生活のサポートでいえば、障がい者支援施設や障がい者グループホームで支援を受ける方法もあるので、それぞれの状況にあった最適な方法を選ぶようにしてください。