8050問題とは、80代の親が50代の子供の生活を支える状態を指します。
子供が発達障がいを抱えている場合、仕事や社会生活がうまくいかずに、引きこもりや無職に陥るケースは少なくありません。
一方で、80代の親も高齢に伴う健康問題や介護が必要となり、子供の支援が難しくなる場合も増えています。
8050問題の現状や発達障がいを抱える子供が直面する課題、そして解決策となる公的支援制度についてまとめました。
8050問題は時間が立つほど深刻化するため、早めに公的支援制度を頼って将来の不安を軽くしてくださいね。
「5080問題」と誤って検索される方もいますが、正しくは「8050問題」です。5080問題で検索した方はこのまま本記事をお読みください。
目次
8050問題とは?社会的背景と現状
冒頭でもお伝えしましたが、8050問題は80代の親が50代の子どもを支える状況を指します。
8050問題が起きる背景として、就職氷河期世代があります。
1990年代から2000年代初頭にかけて、多くの若者が正規雇用の機会を得られませんでした。
そのときの影響で経済的に不安定な状況が未だに続いており、親が高齢になっても子供の生活を支え続けなければならない家庭が増加しています。
8050問題が注目された事例紹介
8050問題は度々テレビのニュースなどに取り上げられています。
札幌市中央区のアパートで82歳の母親と52歳の娘がともに遺体で見つかりました。死因はいずれも栄養失調による衰弱死でした。近所の人の話では、娘は10年以上ひきこもり、近所付きあいはほとんどなく、高齢の母親が娘の生活を支えていたということです。
富山県富山市の自宅に女性の遺体を放置したとして56歳の男が逮捕された事件。遺体は80代の母親とみられています。遺体を放置していた理由について男は「葬式をするお金がなかったから」と近所の住民に話していたことが分かりました。
9060問題も新たな問題となっている
9060問題とは、8050問題がさらに進行して親が90代、子供が60代になる状況を指します。
親が介護を必要とする年齢になる一方で、子供も自身の健康問題や老化による体力の衰えなどに直面するでしょう。
8050問題で発達障がいの子供が直面する課題
8050問題で、発達障がいを抱える子供は将来的にさまざまな問題が深刻化します。
経済的な困窮に陥りやすい
発達障がいを持つ中高年の子どもは就労が困難なため、安定した収入を得るのが難しい場合が多いです。
親の介護が必要になると、医療費や介護費用も重なり経済的な困窮がさらに深まるでしょう。
これらの問題は、子供の自立した生活や、公的な支援制度の活用が解決の糸口となります。
社会的に孤立してしまう
発達障がいを持つ子供は社会との接点が少なく社会的に孤立しがちです。
親も高齢のため外出や地域社会との交流が減少し、結果として親子ともに孤立する傾向にあります。
また、世の中の発達障がいに対する理解不足もあり、地域の支援やコミュニティに参加しにくい状況もあるかもしれません。
最初は抵抗があるかもしれませんが、相談窓口などの話やすいところから関わりを持つことを始めて見るのが良いでしょう。
親亡き後、生活の維持ができない
親なき後、発達障がいの子供の日常生活を維持するのは難しくなります。
親からの経済的な支援が途絶えるため、金銭的な問題が発生するケースが多いです。
8050問題の解決に役立つ公的支援制度一覧
8050問題の解決に役立つ公的支援制度を次の項目ごとにまとめました。
- 相続や財産管理に関わる制度
- 収入に関わる制度
- 就労に関わる制度
- 生活サポートに関わる制度
それぞれ解説するので参考にしてください。
相続や財産管理に関わる公的支援制度
相続や財産管理に関わる公的支援制度 | |
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成年後見人制度 | 判断能力が不十分な場合に後見人が財産管理や契約行為を代行してくれる |
家族信託 | 財産管理や相続対策を目的として、信頼できる家族(通常は子供や親族)に財産を託し管理や運用を任せる |
日常生活自立支援事業 | 公共料金や家賃の支払い、日用品の購入サポートなど日常生活の支援や助言をしてくれる |
遺言書 | 親が遺言書を作成しておくことで、子への財産の分配を明確に指示できる |
成年後見人制度
知的・精神的障がいなどで自分で判断が難しい方のサポートを行ってくれる制度です。
家庭裁判所によって選ばれた成年後見人が、本人の利益を最優先に考えて財産管理や契約行為などを行ってくれます。
成年後見人制度については次の記事で詳しく解説しているので確認してみてください。
家族信託
自分の財産を信頼できる家族に託し、財産管理・運用する制度です。
たとえば、親の財産を障がいを持つ子供が相続したとしましょう。
しかし、障がいの特性上、相続した財産の管理が上手くできない可能性があります。
家族信託は、相続対策や介護費用の確保など、多様な目的に対応できる点が特徴です。
日常生活自立支援事業
知的・精神障がいなどで自分で判断が難しい方に、日常のお金の管理や福祉サービスの利用をサポートする制度です。
利用料金の目安は1,000~2,000円/回です(※生活保護世帯は無料)
この制度を利用するには、事前に社会福祉協議会と契約しなければいけません。
遺言書
遺言書を残すことで、障がいを持つ子供に多く財産を相続させる方法があります。
遺言書があることで財産分与はスムーズに行われますし、障がいを持つ子供に多く相続することで将来の生活費などの不安が薄まるでしょう。
ただし、子供が複数人いる場合は「遺留分」という相続人が最低限受け取ることができる権利があります。
遺言書で障がいを持つ子供に多く相続させるように残しても、財産分与のバランスに不満がある他の子供から「遺留分」を請求された場合はきょうだい間での話し合わなければいけません。
収入に関わる公的支援制度
収入に関わる公的支援制度 | |
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障がい者年金 | 労働が難しい場合に支給される年金。障がいの程度によって1級から3級までがあり支給額が異なる |
生活保護 | 収入が一定以下で生活が困難な場合、最低限の生活を保障するために支給される |
特別障がい者手当 | 重度の障がいがある方に対して、生活支援のために支給される手当。日常生活で特別な介護が必要な場合に支給 |
障がい者年金
障がい者年金は「障がい基礎年金」と「障がい厚生年金」の2種類あります。
障がい者年金の種類 | 概要 |
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障がい基礎年金 | 国民年金の加入者が対象で、重度の障がいを持つ方が受け取れる |
障がい厚生年金 | 厚生年金の加入者が対象で、障がいの等級に応じた年金が支給される |
障がい基礎年金としてもらえる金額は次のとおりです。
障がい基礎年金 | |
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1級 | 年1,020,000円 ※月額換算85,000円 |
2級 | 年816,000円 ※月額換算68,000円 |
上記の金額の他に、障がい者本人に子供がいる場合は次の”子の加算額”が加わります。
子の加算額 |
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2人まで | 1人につき年234,800円 ※月額換算約19,566円 |
3人目以降 | 1人につき年78,300円 ※月額換算6,525円 |
※生計を維持されている子供がいるときに加算されます。
※18歳になった後の最初の3月31日までの子供、または20歳未満で障がい等級1級または2級の子供が対象です。
※障がい基礎年金は”配偶者の加給年金額”はありません。
次に、障がい厚生年金としてもらえる金額は次のとおりです。
障がい厚生年金 | |
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1級 | (報酬比例の年金額× 1.25) + 配偶者の加給年金額 年234,800円 |
2級 | 報酬比例の年金額 + 配偶者の加給年金額 年234,800円 |
3級 | (報酬比例の年金額) |
※配偶者の加給年金額は、生計を維持されている65歳未満の配偶者がいるときに加算されます。
※報酬比例の計算は日本年金機構の報酬比例部分を参考にしてください。
※障がい厚生年金は”子の加算額”はありません。
障がい年金がいくらもらえるかは、年金事務所で確認してもらったほうが確実です。
手続きをすれば長期的にもらえる年金なので、一度確認してみてください。
生活保護
生活保護は、世帯全体の収入が”最低生活費”を下回っている方を対象に支給されます。
たとえば、兵庫県宝塚市で次の家族構成だとしましょう。
- 健常者の80代の親ひとり
- 発達障がい(精神障がい2級)の50代の子供ひとり
この場合、最低生活費は月183,810円が目安です。※あくまで概算です
世帯収入が100,000円の場合、宝塚市の最低生活費を満たしていないため、差額の83,810円(最低生活費183,810‐収入100,000)が生活保護費の対象となります。
特別障がい者手当
特別障がい者手当の対象者は、精神または身体に著しく重度の障がいがある20歳以上の方です。
支給額は28,840円/月となっており、支払時期は原則2月、5月、8月、11月となっています。
障がい者の就労に関わる公的制度
障がい者の就労に関わる公的制度 | |
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就労移行支援 | 一般就労を目指すための訓練や支援を提供する制度。職業訓練や就職活動のサポートをしてくれる |
就労継続支援(A型・B型) | 働く機会を提供する制度。A型は雇用契約を結ぶ形式で、B型は柔軟な形態での作業を提供してくれる |
就労定着支援 | 長く勤め先で働けるように労働者と会社の仲立ちをして相談や助言をしてくれる |
障がい者職業センター | 就労に向けて準備するための支援を提供してくれる。職業訓練やカウンセリングなどのサービスが利用可 |
就労移行支援
就労移行支援とは、障がい者が一般企業での就職を目指すためのサポートを提供しています。
就労移行支援の対象者は次のとおりです。
- 18歳以上65歳未満で障がいもしくは難病を抱えている
- 一般企業への就職を目指している
- 障がい福祉サービス受給者証を所有している
就労移行支援の利用料は1割負担です。
ただし、障がい者本人の収入によって負担額が決まるため、実際は9割の方が0円で利用しています。
就労継続支援(A型・B型)
就労継続支援とは、障がいや難病などで一般就労が難しい方を対象としたサービスです。
障がいのある方に働く場を提供し、それぞれのペースに合わせて仕事に取り組めるようにサポートしてくれます。
項目 | 就労継続支援A型 | 就労継続支援B型 |
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雇用契約 | あり | なし |
賃金形態 | 最低賃金以上 | 成果に応じた報酬 |
就労時間 | フルタイム・パートタイム | 自分のペースで作業 |
対象者 | 雇用契約を結んで働ける障がい者 | 雇用契約が難しい方、重度の障がいを持つ方 |
A型とB型の最も大きな違いは雇用契約があるかないかです。
2022年の月平均の工賃(収入)はA型で83,551円、B型で17,031円となっています。
就労定着支援
就労定着支援とは、勤め先で長く働けるように労働者と会社の仲立ちを行ってくれるサービスです。
具体的には、仕事で生じる問題の相談や助言をしてくれて、障がい者にとって働きやすい環境をサポートしてくれます。
就労定着支援を受けられる対象者は、次のサービスを利用して就職した人です。
- 生活介護
- 自立訓練
- 就労移行支援
- 就労継続支援
料金は、住民税が非課税世帯であれば無料で利用できます。
障がい者職業センター
障がい者職業センターは、障がいを持つ方の就労をサポートを提供する機関です。
「障がい者職業総合センター」と「地域障がい者職業センター」があり、障がい者が自分に合った職業を見つけたり仕事で必要なスキルを習得したりするための支援を行ってくれます。
障がい者の生活サポートに関わる公的制度
障がい者の生活サポートに関わる公的制度 | |
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障がい者支援施設 | 日常生活の支援やリハビリテーションを提供する施設。障がい者が安全で快適に過ごせるよう介護や生活支援をしてくれる |
障がい者グループホーム | 障がい者が共同生活を送る住宅。日常生活のサポートを受けながら自立した生活を目指せる |
居宅介護支援 | 在宅での生活が困難な場合、ヘルパーや介護福祉士が訪問し日常生活のサポートを行う |
障がい者支援施設
障がい者支援施設とは、障がいの種類や程度に応じて生活のサポートや自立に向けた支援を提供してくれます。
家庭での支援が難しい場合や、重度の障がいを持つ方や自立した生活のために特定の訓練を必要としている障がい者が対象です。
具体的にには次のサービスが提供されています。
- 日常生活支援:食事、入浴、排泄などの基本的な生活支援
- 医療ケア:必要に応じた医療サービスの提供
- リハビリテーション:身体機能の維持・向上を目指したリハビリプログラム
- 就労支援:就労に向けた訓練や職場探しのサポート
- 社会参加支援:地域社会への参加を促進する活動やプログラム
障がい者グループホーム
障がい者グループホームは、障がい者が自立を目指して共同生活を送る場所です。
世話人と呼ばれる方が、入居者の食事や服薬管理、入浴や排泄介助を行なってくれます。
弊社も兵庫県宝塚市で障がい者グループホーム犬と暮す家を運営しています。
見学会も随時行なっておりますので、興味がある方はお気軽にご連絡ください。
障がい者グループホームについて詳しく知りたい方は次の記事も併せて読んでみてください。
居宅介護支援
居宅介護支援とは、住み慣れた自宅で必要な介護サービスを受けられるサービスです。
介護支援専門員(ケアマネージャー)が家族の状況や希望をヒアリングし、利用者の身体的・精神的な状態に合わせたケアプランを作成します。
作成したケアプランに基づいて、訪問介護やデイサービスなどのサービス提供事業者が自宅に伺い、必要な介護サービスを利用者に提供します。
8050問題で困ったら?兵庫県宝塚市の相談窓口一覧
8050問題の相談窓口は全国に多数あります。
公的な機関であれば、市町村が運営している「自立相談支援機関」と、都道府県が運営している「ひきこもり地域支援センター」が良いでしょう。
障がい者本人と、その家族であれば対応してくれるため、まずは気軽に相談してみてください。
相談窓口名 | 連絡先 |
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宝塚市 せいかつ応援センター | 0797-77-1822
参照:宝塚市社会福祉協議会 |
宝塚市地域包括支援センター | 小林地域包括支援センター 0797-74-3863 逆瀬川地域包括支援センター 御殿山地域包括支援センター 小浜地域包括支援センター 長尾地域包括支援センター 花屋敷地域包括支援センター 西谷地域包括支援センター |
兵庫県ひきこもり総合支援センター | 078-262-8050 |
8050問題を乗り越えるには早めの対策が鍵!
8050問題は、親子ともに深刻な課題を抱えている状況です。
何も対策をとらないでいると、経済的に困窮して社会的にも孤立してしまう可能性もあります。
発達障がいの子供が自立し、安定した生活を送るためには周囲のサポートや公的な支援制度の利用が不可欠です。
親が元気なうちに対策を始めて、将来に備えた一歩を踏み出しましょう。